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危険生物! スズメバチ!


●スズメバチ(雀蜂)とは

 スズメバチは分類学上ハチ目Hymenopteraスズメバチ科Vespidaeに属する種類のうち、アシナガバチやドロバチなどを除いたスズメバチ亜科Vespinaeに属する昆虫です。漢字で書くと鳥類のスズメが付きますが、別にスズメに似ているわけでもなく、由来は諸説ありよくわかっていません。一般的には別名クマンバチと呼ばれることが多いですが、ハナバチの仲間であるクマバチと間際らしい場合もあります。特徴としてはハチの仲間でも比較的大型な種が多く、がっしりとした体型と目立つ警告色(主に橙色と黒or白色と黒色の縞模様)、発達した社会性をもつのが特徴です。分類学上ではカリバチなどの仲間から進化してきたとされ、大型で堅強な巣を作り、女王と働きバチから構成される大集団で生活します。一部の種類にはほかのスズメバチ類の巣を乗っ取って奪い取る社会寄生と呼ばれる生態をもつ種類もいます。大型で毒も強く、発達した社会性をもつことから、人が襲われることもあり、一般的には人の命を奪う可能性のあり危険な生物として認識されていることが多いですが、生態系的には結構重要な種類でもあります。 


●スズメバチはどこにいるの? 

スズメバチは寒帯~熱帯まで幅広く分布しており、熱帯地域に多いですが、寒帯地方にしかいない種類もいます。世界では約70種が知られており、そのうち20種(スズメバチ属8種、クロスズメバチ属5種、ホオナガスズメバチ属7種)が日本に生息しています。国内では平地から山地にかけて広く見られ、市街地でも一部の種を除いてよく見られます。


石川流域のスズメバチ




 ●スズメバチは何を食べるの? 

スズメバチは成虫は糖分を好む植食性中心の雑食性で、主に巣内の幼虫が出す糖類を含んだ分泌液を餌とするほか、野外では樹液や花蜜などを吸汁したり、幼虫のために捕獲した昆虫などを食べたりもします。一方、幼虫は完全な肉食性です。自分では餌を摂れないため成虫が餌となる昆虫などを捕獲し、肉団子状にして幼虫に与えます。



 ●スズメバチは何で刺すの? 

ミツバチやアシナガバチもそうですが、基本的に巣の防衛のために刺してきます。狩りバチの多くは獲物を麻痺させて幼虫の餌として使う種類が多いですが、スズメバチやアシナガバチのような強力な顎を持つ種類では必要なく天敵への防御のために刺します。 




●スズメバチに襲われないようにするためには? 

スズメバチは初夏から秋にかけて主に発生しますが、刺咬被害が多いのは秋(9~11月)です。初夏から夏にかけてはスズメバチは営巣や幼虫の餌採りに励んでおり、巣に接近しなければまず襲われることはありません。一方、秋には大きくなった巣を維持するために多くの獲物を運ばなければならず、涼しくなって餌となる昆虫なども少なくなるためより活発に活動するようになるほか、巣の防衛のために気も荒くなるため襲われやすくなります。スズメバチに襲われないようにするには、

以下のようなことが重要といえます。


①黒い服装を避ける(天敵であるクマの体色)


②香水や整髪料など匂いのあるものを身につけない(匂いがハチを刺激することがあるため)

③巣を見つけても近づかない(言わずもがな)

④法面の茂みや道のわきを歩く際には気を付ける(地面に営巣している種もいるため)

⑤近づいてきても不用意に追い払わない(興味をもってハチの方から近づいてくることもあるが、決してこちらから手を出さない)。


襲われてしまった場合は最悪刺されることは覚悟しながら逃げるか頭や顔などの急所を避けながら退散しましょう。基本的に攻撃前にはハチの方からカチカチといった警告音を鳴らしてくるのでその音が聞こえたら退散した方がよいです(無論、前触れもなく急に襲われる場合もあります)。 刺された場合は患部を流水で洗い流し、ポイズンリムーバーがあればそれを使って毒液を吸い出します。なければ、爪でつまんで絞りだして洗います。その後、抗ヒスタミンを含んだ虫刺されの薬を塗布します。刺された後、体調が悪くなったりした場合はすぐに病院で診てもらった方が良いです。  


●人とスズメバチ 

危険な生物と認識されているスズメバチですが、実は人は昔からスズメバチと互いに利用しあいながら共存してきました。信州地方で有名な蜂の子料理などもそうで、伝統料理として昔から親しまれています。また、捕食性であるスズメバチは農家の嫌う害虫なども退治してくれる益虫的な側面ももっており、単に人を刺して被害を出すだけでなく、生態系や人の暮らしを支えている影の立役者ともいえます。 一報、近年では市街地に進出して人家や人工物、庭先の低木などに営巣して大きなトラブルとなることも増えています。こうした場合、多くは安全確保のために駆除されてしまいますが、スズメバチも自分の家族であるコロニーを守るために必死になっているだけにすぎず、家族のために懸命に働くのは私たち人と同じです。その点だけは理解しながら過度に駆除することなく、恐れながらもうまくつきあっていきたいものです。 


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 【参考・引用文献】 

羽根田治(2004).野外毒本 被害実例から知る日本の危険生物.山と渓谷社.264pp. 日高敏隆・石井実・大谷剛・常喜豊(1996).日本動物大百科 第10巻 昆虫Ⅲ.平凡社.190pp. 大阪市立自然史博物館(2006).改訂版 ミニガイド スズメバチとアシナガバチ.特定非営利活動法人大阪自然史センター.44pp. 寺山守・須田博久(2016).日本産有剣ハチ類図鑑.東海大学出版.736pp.